#002 Financial Planning & Analysisのコア業務 ー (1)ビジネスパフォーマンスのモニタリング (2)予算(バジェット)と予測(フォーキャスト)の策定 について。
こんにちは、西崎俊です。このニュースレター「FP&A Camp」では、管理会計やFP&Aについて情報を発信しています。
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前回の記事では、ざっくりとFP&Aの役割について話しました。今回は、より具体的にどういった業務をしているのかを詳しくみていきたいと思います。
👩🏻💻FP&Aの業務内容
FP&Aの業務は大きく分けると、以下の4つです。
(1)ビジネスパフォーマンスのモニタリング
(2)予算(バジェット)と予測(フォーキャスト)の策定
(3)ビジネスモデルの評価と改善
(4)ERPやビジネスツールの導入、各種の業務推進プロジェクトへの参加
今回はその中でもコア業務となる(1)と(2)について説明します。
💰(1)財務指標・ビジネスパフォーマンスのモニタリング
まずは基本の基本、実績数値のトラッキングです。これはどのFP&Aもやる、基本の業務でしょう。売上、費用、利益、キャッシュフローなどの指標を分析し、実績と予測を比較して業績の進捗状況を評価します。
FP&Aに求められているのは、効果的な意思決定への貢献
大抵の場合は、SAPなどのERPからデータをダウンロードして、excelで加工して数値を作り、パワポの資料を作って会議で説明という流れが多いのではないかと思います。
進んでいる大企業であれば、データベースにERPや人員のデータは入っていて、TableauやPoweBIなどのBIツールと接続しダッシュボードで可視化している、という会社も多いでしょう。
場合によっては、各自でSQLを書いて分析を進めることもあるかもしれないですね。
ここで大事になってくるのは、
・どのKPIまで評価をするのか
・どの粒度まで評価をするのか
の2点です。
・どのKPIを評価をするのか
ですが、会社や事業によって大きく異なる部分です。基本的には財務3表をベースに分析することが多いでしょう。
年ごと、四半期ごと、月ごとの人件費や物流費など、費用を科目ごとに報告します。
しかし、FP&Aの守備範囲は会計数値だけにとどまりません。
・どの粒度まで評価をするのか
これもFP&Aの職務を左右する項目です。
例えば製品の収益性ひとつをとっても、他社比較、事業別、製品別、営業員別...など深掘りしようと思えばいくらでも分解ができます。
FP&Aの責務は、これらのKPIと粒度を組み合わせて、会社の意思決定にとって有益な示唆が出せる「切り口」を探すことです。
「先月は展示会に出展した影響で宣伝費が2,000万円と高くなっていますが、これは年初に想定していた予算内で収まっています。」
「減量価格高騰の影響で第2四半期の利益が見込み5%下回りそうです。」
「官公庁向けソリューションが順調に伸びていますが、金融セクターでの売上が伸び悩んでいます。追加のマーケティング予算を取る検討をしませんか?」
などなど、、、費目の数だけ切り口がありますし、事業部の数だけ切り口があります。それらを組み合わせたら、それだけでも分析の幅は無限大になります。
デキるFP&Aの資質として、「金になりそうな分析の切り口を見つけてくる才能」というのがあります。これは経験則としか言いようがないんですが、FP&Aの仕事をやっていると、ここにメスを入れたらいいんじゃない?という嗅覚のようなものが鍛えられてくるんですよね。やることは無限大にあるけど、限られた時間の中でいかにバリューを出すか、というのも大事な観点です。
非財務諸表の分析
財務三表に現れない数値もFP&Aの分析領域になることがあります。
代表的なのは、「人員(ヘッドカウント)」でしょう。
人件費は多くの企業にとって非常に大きなコスト構成項目です。その大元である、従業員数の計画と実績というのは、会社の戦略上非常に重要な意味を持ちます。どの部門・どの事業に人員を投入するのか?という問いは、そのまま経営計画の方針であり、経営層にとっても大きな関心の一つです。
私もずっとヘッドカウントの管理は行ってきましたが、非常に悩ましい問題でもある一方で、経営の根幹に関わっている実感があり、やりがいのある仕事の一つです。
会社によっては売上(Revenue)の前段階の計測、つまり、受注率や見込み顧客などCRMやマーケティング系の指標についてもFP&Aが絡む場合がありますね。
そもそもこれらは各事業部、マーケティング部や営業推進などが管理している場合が多いです。
外資系だと、いわゆる「ファイナンスビジネスパートナー」としてチームが設置してあり、数字に関する分析ははとりあえずFP&Aがやる、というケースも多いです。
また、事業部やマーケは基本的にトップライン=売上指向の性格があるので、コストに関する数値を持っていなかったり、あるいは(時に意図的に)コストを無視して話を進めようとします。
FP&Aの責務としては、「案件獲得あたりの費用(Cost per Order)」などを部門別に分析したりして、効率性の観点でアドバイスをすることも重要な役割です。
ヘッドカウント、受注だけではありません。
FP&Aの分析領域になりうる指標は、多岐に及びます。
会社によって、専門の部署があったり、事業部で管理しているとこもあるでしょうが、
下記のような項目はFP&Aの職務に入ってくる可能性かあります。
・顧客のクラスター分析
顧客の人口統計的分析
契約時期・購買行動別特性
・マーケット分析
市場の成長率、成長機会、リスク機会
マーケットシェア
自社の強み・弱み
・プライシング
最適価格の設定
アップセル分析
競合他社の価格分析
最適な割引率・キャンペーン価格
・サイクルタイム
製造・輸送にかかるリードタイムの監視
運転資本回転率の最適化
・品質管理指標
不良品率
不良コストはいくらか、改善できるのか
返品率は上がっているか
・カスタマーサービス
リテンションレート
アップセル・クロスセル率
顧客満足度スコア
・金融市場評価
自社株価
PER等の対株価レシオ
社債格付け
・ESGスコア
環境スコア
ダイバーシティスコア
従業員満足度
などなど、あげればキリがありません
会社に関する数値であれば、なんでもFP&Aの仕事になる可能性があります。
そして、私はどちらかといえば財務三表から少し外れたトピックの方が好きです。
財務三表の分析って、もうある程度方法論が固まったりしているので、自分の色が出しづらかったりするんですよね。
反面、プライシングなんかはすごく奥深いトピックで、あーでもないこーでもないと試行錯誤が必要な分野です。本当に頭は疲れますが、それゆえにバリューが出せた時の達成感と、会社からもらえる評価というのはただの作業をやっている時の何倍も高いです。
🎯(2)予算(バジェット)と予測(フォーキャスト)の策定
さあ、バジェットとフォーキャストです!
これもほぼ全てのFP&AのJob Descriptionに入っている項目ですね。
(1)で紹介した実績の計測というのは、予算と予測と一緒にやらなければ、片手落ちです。
ビジネスで散々言われるのが、いわゆる「PDCAサイクル」ですが、PlanがなければCheckが意味をなさないわけです。
予算策定の方法論
では、実際予算の策定ってどうやってやるのでしょうか?
基本的な方法論としては
トップダウン方式とボトムアップ方式の二つがあります。
まず、トップダウン方式
これは、会社の中長期計画から逆算して、予算を各項目、部門別に割り振っていく方式です。
例えば、会社の中期計画として「5年後までに売上5,000億円を目指す」という大前提があるとします。
そこから考えて
5年後までに売上5,000億円→売上年平均成長率7%→そのために必要な20xx年の人件費⚪︎⚪︎円
といった具合に試算していく形です。
ボトムアップ方式は
過去実績比方式と、各部門収集方式があります。
過去実績ベースでは、「例えば過去5年のCAGRが5%なので、単純に来期も5%伸ばして設定する」
というような決め方です。
各部門収集方式は、プロフィットセンタやコストセンタである各部門に入力シートを配布して、来期に予定している計画を入力してもらう、というものです。
トップダウン、ボトムアップいずれの場合も、ゼロベースで行うケースも、前年度の予算を踏襲してそれをもとに調整するケースもあります。
実際には、トップダウンとボトムアップの両方が使われることが多いです。
よくあるのは、以下のような順序です。
まず、大きな項目(売上、経常利益、キャッシュフロー)などについてはまずトップダウンで決定します。
同時に、費目ごとに実績ベースや各部門から収集した数値を積み上げていって、トップダウンで出した数値と比較します。
ボトムアップ数値がトップダウン数値を超えていれば、どこかに削減の余地はないか検討を重ねていきますし、逆に稟議の上、経営計画自体を修正しなければならないこともあるでしょう。
予算策定における課題と成功させるための要素
予算の策定って本当に大変な作業で、
例えば、外資系であれば本国のトップの経営陣からトップダウンの数値が降りてきてから、試算を始めるわけですが、数値がなかなか降りてこなかったり、国内のマネージャーの承認も取って一息ついたかなーと思ったら、「やっぱり日本は来期6.5%じゃなくて7%成長で頼むわ」ってきたりとか。
ボトムアップに関しても、
「今忙しいんで入力とかやってられないです。」とか、
「すみません、来期この機械買いたかったんですけど入力するの忘れてました!」とか、
「それ、関東エリアで予算取るならウチもやりたいです!」とか、
色々な困難があるわけです。
予算の策定で重要になるのが、以下のようなマネージャーの仕事です。
・スケジューリング
限られた時間の中で、自分たちの分析時間は確保しつつも、関連部署のスケジュールが押した時のためにバッファーを取っておく。作業にかかる工数を正確に見積もって、進捗を管理する。
・コミュニケーション
予算策定はセンシティブな作業です。経営計画に関わることですから、末端の社員には知られてはいけない項目も多く、権限設定などのセキュリティに気を配る必要があります。
一方で精度の高い予算を策定するためには、各部門にプランや方向性を理解してもらい、通常業務で忙しい中時間を取って協力してもらう必要があります。
どの部門の誰まで、どのレベルまで情報を開示するのか。
FP&Aもマネージャーになると、このあたりに頭を悩ませることが多くなってきますね。
これって、「コミュニケーション能力」の最たるもので、FP&Aの求人に必ずといっていいほどこれが含まれているのは、そういう理由なんです。
ただ、私が言いたいのは、FP&Aに求めらているコミュニケーション能力っていうのは、この記事でも説明している通り、喋りがうまくて場を盛り上げられるとかっていうことではありません。
コミュニケーションの本質は「お互いが持っている情報のギャップを想像して、それを埋めていける能力」です。
・幅広い業務知識
予算の策定においては他の部署との連携が必要なため、マーケティングやSCM(サプライチェーンマネジメント)について一定の理解も必要です。ただし、プロフェッショナルな専門家とは異なる前提で業務を進めます。
私たちの武器は客観的な証拠である数字とコミュニケーション能力です。
現場では、ほとんどの場合、数字の適切な管理が行われていません。日々のオペレーションで忙しく、数値による客観的な分析が後回しになっていることが多いんですよね。。そこでFP&Aの出番です。数字と論理を駆使して現場を整理し、見える化します。
などなど、プロセスが円滑に進むためには、取りまとめるマネージャーの力量が非常に重要になってきます。
フォーキャストの作成
さて、予算(バジェット)の次は予測(フォーキャスト)です。
バジェットとフォーキャストの違いは実はあいまいなのですが、
バジェットは一度決めたらあまり動かさない
フォーキャストは毎月、毎四半期ごとで都度作成する
フォーキャストは、ベストケース、リアリスティック、ワーストケースなど、いくつかのシナリオを作ることがある
バジェットとフォーキャストでは、粒度が違ったりする
といった違いがあります。
予算は大抵は年1回です。会社によっては半期、四半期でレビューがあったりするかもです。
対してフォーキャストは、月単位で立てることが多いように思います。
フォーキャストも方法論は色々ありますが、基本となるのは月次の実績をベースに組んでいくものでしょう。
ビジネスの状況というのは、刻一刻と変化するものですよね。予算を組んだ時には想定していなかったイレギュラーも発生します。
月次の実績が締まったら、まずはそれが予算で決めた計画の範囲内に収まっているのか確認します。
もしイレギュラーな事象(例えば、想定外のコスト増加、思ったように売上が伸びていないなど)
があれば、それを織り込んで四半期や年間の着地がどのように変化するのか、予測値を作ります。
その予測値をもとにして、さらなるコスト削減に取り組む必要があるのか、追加の人員を採用する必要があるのかなどのシミュレーションと意思決定を行います。
そして、(1)と(2)を組み合わせたものが、
予算実績差異分析、予測実績差異分析、予算予測差異分析になります。
バジェットに対して実績値を比較するのが予算実績差異分析
フォーキャストと実績を比較するのが予測実績差異分析
バジェットとフォーキャストを比較するのが予算予測差異分析
🪴まとめ
今回は基本の業務:
(1)ビジネスパフォーマンスのモニタリング
(2)予算(バジェット)と予測(フォーキャスト)の策定
について少し詳しく説明しましたが、いかがでしたでしょうか?
少しは具体的なイメージが湧いたのであれば幸いです。
今回は定例的な業務について紹介しましたが、次回は定例ではない、いわゆるワンタイム、アドホックと言われる領域の話を中心にできればと思います。
(3)ビジネスモデルの評価と改善
(4)ERPやビジネスツールの導入、各種の業務推進プロジェクトへの参加
それでは!
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