#003 FP&Aの仕事 (3)ビジネスモデルの評価と改善(4)ERPやビジネスツール導入、各種の業務推進プロジェクトへの参加について。
こんにちは、西崎俊です。このニュースレター「FP&A Camp」では、管理会計やFP&Aについてお話しています。
前回の記事では、FP&Aの実務について、実際のところ何をやっているのか(1),(2)について話しました。
(1)ビジネスパフォーマンスのモニタリング
(2)予算(バジェット)と予測(フォーキャスト)の策定
(3)ビジネスモデルの評価と改善
(4)ERPやビジネスツールの導入、各種の業務推進プロジェクトへの参加
今回は後半の、(3)、(4)について詳しく見ていきます。
⚖️ビジネスモデルの評価と改善
これは(1)と(2)の複合でもあるのですが、定例の業務というよりは、ワンタイムの仕事という形です。Ad-hocという言い方もよくします。
新規事業ももちろんそうですが、
リストラや早期退職パッケージによる人件費削減効果の試算、
企業の買収や売却における各種の分析
などが挙げられます。
日系企業だと、「経営企画部」がやる仕事に重なる部分ですね。
事業評価
まずは事業評価です。
事業評価では、企業のビジネスモデルやプロジェクトの財務的な側面を評価します。
新規事業や既存事業への追加の投資価値を分析し、リターンオンインベストメント(ROI)やキャッシュフローの見通しを算出します。
これにより、経営陣が意思決定を行う際に財務的な観点からの支援を提供します。
私は、新規事業開発には関わったことはないのですが、「事業部別のROCEを試算し、各事業の生産性を検討する」というタスクをやったことがあります。
ROCEの計算原理自体ははそんなに難しくはないのですが、実務的には結構悩むところです。
PLの事業部別の配賦の粒度と、BSの事業部別の配賦の粒度が違っているケースがあり、「事業部別の投下資本」は精緻に出そうとするとかなり骨が折れる作業になるんですよね。
(ほぼ100%の確率で、BSの配賦の方が粒度が粗いはずです。)
PLは税引き前利益まで事業部別に出しているが、固定資産の簿価と償却費の配賦はざっくりしかしていないという感じで。
また、並行して行うWACCの算定も専門知識が必要で難しいポイントです。
なぜROICではなくROCEかというのはまた別の機会にでも触れたいと思います。
結局のところ株式会社の目的って、資金によって得た金をビジネスで増やして、株主・債権者に還元することことですよね。
「株主・債権者の期待リターン」を表現するのによく使われるのがEVA(Economic Value Added)ですが、FP&Aの仕事を言い換えると、「会社のEVAを最大化するための打ち手を考えること」とも言えます。
事業やプロジェクトの収益性について分析し、シナリオを数パターン作成する。
DCFを使ってキャッシュフローのシミュレーションをする。
ここはFP&Aとして力の見せ所ですが、ファイナンス経験のない経理出身社は苦手な部分でもあり、銀行出身者や、コンサル出身者が得意の分野ですよね。
私の知り合いのFP&Aの中でも、PLは得意だけど、BSやキャッシュは苦手…と言う人、結構多いです。
私は外資系に入社してから、すんなりBS脳になれたという気がしてます。この話はまた今度したいと思います。
リストラ
「リストラ」の際も、大抵の場合FP&Aは引っ張り出されます。
まずそもそもヘッドカウントを管理しているわけですから、人員計画をどう作っていくのかはFP&Aの仕事をしていると常に議論にあがります。
また、退職パッケージを用意する場合は、その実施が財務に与える影響を短期的・長期的にわたって試算する必要があります。これによって、パッケージの内容や、最大何人まで退職対象とするのかなど、重要な決定が下されます。
ここは、人事や経理と密接にコミュニケーションが必要な領域ですね。
私も2社目でリストラの試算に関わったことがあります。
まだ平社員でしたので、部分的にではありましたが、
上司から「社員の名前を除いたIDと給与、コストセンタの一覧」を渡されて、
誰が辞めたら退職一時金がいくらになり、その後のコスト減はいくらになるのか?
という試算をいくつかシミュレーションを作ったことがあります。
その作業をしている時はなんか生きた心地がしなかったというか、マジで夜遅くまで「本当にこれでいいのだろうか?」と悩んでいました。
それもそうで、匿名にはなっているものの、ポジションや年齢から、うっすらと誰がリストラ対象になるのかは想像ができるわけですよ。実際に仕事でお世話になった人や、本当に尊敬している社内のレジェンド的存在の方も対象になっているわけですから、私のこのexcelでその人たちの人生が左右されるかもなんて考えたら、「こんな仕事正直サイコパスしかできないだろ!」と思っていました。笑
まあ結局のところ、誰をリストラ対象にするかはすごい上の人たちが決めていて、全く私の作った試算通りにはいかなかったのですが。笑
M&A
それから、企業の買収や売却。
これもFP&Aの出番が多い場面でしょう。
買収におけるバリュエーションから、統合後のPMI業務まで、FP&A部門の活躍機会はいたるところにあります。
ただ、企業買収に関われるFP&Aというのはなかなかないです。特に外資系の場合は本国で意思決定するケースがほとんどですので、日本支社のFP&Aチームが関わるのは買収後のプロセス統合などが多い印象です。
逆に、日系の経営企画の人なんかは、買収を経験して大きく成長できました、という人の話もよく聞きます。
私のケースで話すと、本社がある領域の製品ポートフォリオ拡充のために、競合企業を買収したことがありました。
もちろん本国では何ヶ月、あるいは何年も前から計画が進んでいたのでしょうが、私や上司も含めて、買収の話を、社内のアナウンスよりも先にニュースで知るというくらいの温度感でした。
買収の報道があって翌週の月曜に、(時差があるので太平洋時間と大西洋時間で2回)グローバルのミーティングが開かれて、今回の買収の意図、経営陣の紹介、これからの体制なんかがアナウンスされました。日本の我々は「ふーん。」という感じで現実味なく聞いていたのを覚えています。
買収された会社も日本支社がありましたが、それなりに人がいたのでオフィスはそのままでしたし、あまり実感はなかったのですが、実務にはたくさん影響がありました。
しかし、ここからが大変です。会社が違いますから、使っているシステムも違えば、勘定科目も違いますし、予算のスケジュールから何から何まで違うわけです。
もちろん、いきなり全部を統合するのは難しいです。
それぞれの事業計画などは昔のプロセスのままそれぞれの会社の担当者が継続して行い、売上や粗利など大きな項目のみ合算を連結システム上で行いました。
バジェットやフォーキャストに関しては、Excel上でそれぞれレベル感を合わせた上で、なんとか合体させて報告する、という形を取りました。
Execlベースの資料作成は増えましたし、買収元・先ともに一時的な仕事は増加しました。
そのあとは徐々にERPの勘定科目を合わせたり、Excelのフォーマットを統合していきました。
こういう時はまあみんなが大変で、特に経理の人たちは大忙しでしたね。
連結って大変。
ただやっぱりこういうのはキャリア構築の上でとても良い経験になりますよね。
実務として学ぶことが多いのはもちろん、他の会社のプロセスを知る機会ってあまりないのですごく参考になります。すごい洗練されてるな、と思うこともあれば、ここはうちの方が高度なやり方してるな、と思うこともありました。
あと、こういう時って会社にコンサルだったり投資銀行の人が来るんですが、みんな頭良くてすごい勉強になります。
🧑🏼💻ERPやビジネスツール、各種の業務推進プロジェクトへの参加
これも(3)と同じく一時的な仕事ではあるのですが、「本業ではない業務」への参加です。
会計基準やそれに伴うシステムの変更
代表的なものはERPの入れ替え・改修ですね。
これはここ最近でもSAP ERPの入れ替えが多くの企業であったでしょうから、こういったプロジェクトに参加したファイナンス職の人は大勢いるでしょう。
ここ5年くらいで最も熱かったのは、「新収益認識基準(IFRS15,ASC606)」の導入ですよね。
新収益認識は、単なる会計基準の変更にとどまらないインパクトがあった会社が多いのではないでしょうか。特に、大手メーカーなんかで大物の機器売りと部品売り、保守サービス、さらにはサブスクもやってますなんて会社はERPだけでなく周辺システムも抜本的に見直したところが多いと思います。
FP&AにとってはKPIの定義も変わるし、計測方法・モデリングも変えないといけないし、過去に遡ってComparableな数値を作らないとだしで、てんやわんやだったのではないでしょうか。
また、受注残の開示など、そもそも今まで計測していなかったKPIが増えたりとかね。
これを機にERP以外のCRM、SCMなども全社的にシステムを見直して、フォーキャストの仕組みを再構築するなんてプロジェクトが走った会社も多くあったようです。そういうプロジェクトにもFP&Aの価値がはっきりさせる大きな機会ですね。
今後も、会計基準の変更は色々控えています。まず来るのは「リース会計(IFRS16)」ですね。
部門横断プロジェクトにおけるFP&Aの役割
こうしたプロジェクトでのFP&Aの役割は、
「出したいKPIがちゃんと取れるように、各部門を動かす」
ということです。
プロジェクトに参加した人はわかると思うのですが、「関係する人がすごく多い」んですよね。経理の人はもちろん、事業部のトップたち、社内のIT担当、監査法人の担当者、本国の内部監査担当などなど…
ここでも、FP&Aの人材はKPIの変更や売上タイミングの変更など、KPIへのインパクトや、財務会計と管理会計の要件の違いを噛み砕いて経理や事業部側に伝える橋渡し役的な立場を求められたりするわけです。
私が強調したいのは、どんな人であってもこのようなプロジェクトには何かしらの貢献ができるはずだということです。
FP&Aのキャリアとして、色んな構築の仕方があります。
経理に加えてファイナンスにも強い人
営業事務を経験していてフロントのプロセスにも詳しい人
ERPなどのシステムに強い人
同じ経験をした人はいないし、能力にも個人差でもあります。
でもそれこそが組織にとっての強みだし、もし自分がCFOだったら自分のファイナンス組織には色んな人にいてほしいと思います。
完璧を目指す必要はなくて、自分にあったキャリアの構築をしていけば良いんです。
実際こういったクロスファンクションのプロジェクトにおいては、色んなバックグラウンドを持った人がいた方がPJがスムーズに進みます。
🥨まとめ
今回は通常業務に加えて行うAd-hocな業務について説明しました。
こういったプロジェクトは会社によって内容が異なります。
でも、その全ての経験があなたのためになっています。
こういったプロジェクトにはぜひ積極的に参加するようにしたいですね。
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