SAP使用経験って、どの程度のことを言うの?

#014 求人票によく記載がある「SAP使用経験」。何ができれば「SAP使えます」と言えるのでしょうか?レベル1〜レベル4まで解説。

SAP使用経験って、どの程度のことを言うの?
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#014 求人票によく記載がある「SAP使用経験」。何ができれば「SAP使えます」と言えるのでしょうか?レベル1〜レベル4まで解説。

こんにちは、西崎俊です。
このニュースレター「FP&A Camp」では、管理会計やFP&Aについてお話しています。

前々回の記事では「管理会計計スキルの習得方法
前回の記事では「英語の学習方法」について考えました。

この二つはFP&Aにとってどちらも重要なスキルセットです。
会計×英語で年収アップできるのは前回紹介した通りですが、さらにここに追加したいスキルがあります。

それは「IT」です。
会計×英語×ITスキルを高レベルで持っている人材は貴重です。

ひとくちにITと言ってもさまざまなものがありますよね。FP&Aで身につけるべきITスキルについてはこちらの記事でも紹介していますので、参考にしてください。

今回のテーマはITスキルの中でも特に重要な「ERP」についての話をします。

開発者ではなくユーザーとしてのERP経験とは?

中規模以上の会社であれば当然のように導入されているERP。
中小企業でも、最低限の会計システムや、安価な人事管理SaaSを導入している企業は多いでしょう。

我々のようなFP&A実務者にとって、ERPを使いこなしてデータを正しく整理し、抽出・加工してデータ分析ができることは極めて重要です。

経理・FP&Aの求人にも、募集要件の欄に「SAP ERPの使用経験」「Oracle Hyperionの使用経験」という項目が記載されていることが多いです。

🤔
しかし、ERPが使いこなせるというのは、どういう状態なのでしょうか?

会計スキルであれば、CPAなどの資格で証明ができます。
英語であればTOEICの点数が目安になりますし、そもそも英語で面接すればある程度の判断ができますよね。

ERPに関しても、ベンダー認定の資格はたくさんあります。
しかしその多くは開発者やコンサルタント向けであり、ユーザーとしてのスキルを測るような手段はほとんどありません。

Webで検索してみると、同じような疑問を持つ人も多いようで、発言小町のトピックがヒットします。
数人回答者がいますが、なかなか適切な回答を得るのは難しそうです。

そこで今回は実務で10年SAPを使用してきた私が、「SAPをユーザーとして使いこなせるとはどういうことなのか」について考えてみたいと思います。

結論を先に言うと、

「会社の業務マニュアルに書かれている以外のことができる」が中級者です。

しかしそれではあまりにも乱暴ですので、今回は以下の4段階に分けて、それぞれのレベルで必要なスキルレベルを考えてみました。

・レベル1 ジュニアスタッフ、派遣事務(年収250〜400万円)
・レベル2 スタッフ(年収500万円〜799万円)
・レベル3 シニアスタッフ〜ジュニアマネージャー(年収800万円〜1,199万円)
・レベル4 シニアマネージャー、ディレクター以上(年収1,200万円〜)


転職希望者だけでなく、「SAP使用経験」のレベル感がよくわからない転職エージェントのジュニアスタッフの方などにも参考になれば幸いです。

なお、SAPは各企業ごとにカスタマイズされているため、あくまで一般的・抽象的なレベルでの話だと思って参考までにしていただければと思います。

レベル1ジュニアスタッフ、派遣事務(年収250〜400万円)

まずはレベル1の初級者です。初めてSAPを触る人や、単純作業のみを責任範囲とするレベルです。

ジュニアスタッフのスキルセット

 ・SAPの基本的なUIについて理解をしていて、メニューの開き方や、データのダウンロードの方法がわかる

 ・社内のマニュアルなどを見ながら、入出金登録、消し込みなどができる

 ・マニュアルを見ながら参照トランザクションをダウンロードして、レポートを作成することができる

まずは基本操作から

SAPは業務システムですので、普通のソフトウェアとはちょっと勝手が違うところがあります。基本的な操作方法を覚えるのにも少し時間がかかる人もいるでしょう。

なのでまずは、

 ・トランザクションコードを叩いたり、ツリーメニューから目的のトランザクションを検索する、お気に入りに入れる。
 ・明細の金額がプラスであれば借方、マイナスであれば貸方ということを理解している
 ・抽出画面で勘定科目コードや会計期間を設定する
 ・抽出したデータをダウンロードする
 ・データ抽出画面でレイアウト変更をして、表示項目を変更する

などといった基本的な操作ができるようになるだけでも、一つのステップといえますね。

マニュアル見ながら作業ができればOK。

そして実務に関しては、「マニュアルを見ながら」というところがポイントです。
大抵の場合、SAPを使用しているような規模の企業であれば、(クオリティはピンキリとしても)業務マニュアル的なものがあると思います。

これらのマニュアルに記載されているスクリーンショット等に従い、定型的な業務をやるのであればほとんどの経理初心者や営業事務初心者はできるはずです。

自分の頭で考える作業をほとんどしないため、付加価値としては高くありません。
また、AIやSaaSサービス、RPAによって置き換えされる可能性も高いです。

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このレベルでは自分の頭で考える作業をあまりしないため、付加価値としては高くありません。
また、AIやSaaSサービス、RPAによって置き換えされる可能性も高いです。

レベル2 スタッフ(年収500万円〜799万円)

SAP経験2,3年目〜 日々の実務をある程度こなせる、スタッフレベルの目標値です。

スタッフレベルのスキルセット

・会計伝票を登録すると、どういう処理が起こるのか?理解している
・月次、年次の締め業務において、マニュアルを見ながら振替伝票や修正伝票の起票ができる
・イレギュラー処理や修正が発生した時に、上司の確認を仰ぎながら伝票起票ができる
・GR/IRの概念について理解していること
・会計上未消込になっている伝票の調査や、レポート集計が合わない場合の原因調査が自分で完結できる

システムと会計知識を紐づけて考える能力

SAPに関わる経理部門のスタッフとして避けて通れないのが、

「締め業務」
「未消込伝票の消し込み」
です。

これらの基本業務を一通りこなせることが、スタッフレベルとしては最低限のスキルになると思います。
いずれの業務に関しても、通常時のものと、イレギュラー処理に分かれます。
複雑なイレギュラー処理については、どういった処理を行うべきか上司に確認しながら行うことができればOKです。

当然のことながら、伝票を起票・転記することによって、会計上何が起こるのか?を理解していることも必須です。
レベル1の段階では言われた通りに伝票処理ができればそれでよかったですが、このレベルでは自分が行った処理をすると会計上どういったことが起こるのか頭で考えられる必要があります。

例えば下記はFB70(得意先請求書入力)の画面です。

Source: SAP Press Financial Accounting in SAP ERP: Business User Guide

こちらを使って伝票を入力すると、

Dr. 191101(得意先コード) <得意先名> 500USD
  Cr. 950000(売上の勘定コード) <売上> 500USD

という仕訳が作成されます。 
これはSAPの画面上借方が得意先と表示されていますが、借方に売掛金、貸方に売上が計上されるという意味です。
この貸方の勘定科目の仕組みは統制勘定と呼ばれ、補助元帳の仕入先コードや得意先コードを通して総勘定元帳に入力するように制御すような仕組みです。

これを転記処理すると、総勘定元帳(GL)にGL伝票が作成されます。

SAPシステムと簿記の教科書で学んだ事柄には違いがあり、戸惑うことも多いでしょう。
上記例は基本的な例ですが、実務上はより複雑な処理もたくさん出てきます。
これらのシステム上行われる処理と、自分の会計知識を照らし合わせて自分が今何をやっているのか?理解しながら処理を行えているかどうかがキーポイントになります。

SAP特有の概念の理解

簿記で「売上」の仕訳方法って数種類ありましたよね?三分法、分記法、売上原価対立法、総記法。
日商簿記検定においては、総記法は1級の論点。
売上原価対立法も1級の論点でしたが、2016年から2級の範囲になりました。

日本では三分法がポピュラーで、簿記試験でも重点が置かれていますが、
SAPは「売上原価対立法」です。

ちなみに、日本の簿記教育では三分法を基本的な処理方法としていますが、そもそも英米では教育現場でも売上原価対立法が基本的な処理とされています。
簿記2級で売上原価対立法がマイナー論点扱いされているのはちょっと遺憾です...

また、SAP特有のGoods Receipt / Invoice Receiept (GR/IR)と呼ばれる入庫請求仮勘定については、非常に重要な概念になりますのでしっかり理解をしておきましょう。
GR/IR勘定の消し込み作業は多くの企業で発生すると思います。こういった消し込み作業を一人でできるようになっていると、レベル2はクリアと言えるでしょう。

😎
SAPを使った業務に慣れてくると、SAPの奥深さもがわかってくると思います。
学ぶことは多いですが、絶対にタメになるスキルなので自信を持ちましょう!

レベル3(シニアスタッフ〜ジュニアマネージャー)(年収800万円〜1,199万円)

シニアスタッフレベルのスキルセット

 ・自分の会計知識と業務知識に照らし合わせて、上司の指示なしに「あるべき姿」を描くことができ、それに沿って伝票の起票やSAPのマスタ登録等を変更できる
 ・各マスタについて、どのマスタに何が格納されていてどんな意味を持っているかわかる
 ・自分の専門分野のモジュールについては高度な知識を持っており、他モジュールについてもある程度の知識がある
 ・モジュール間のデータフローに関して理解しており、自動仕訳できられる仕訳の仕組みがわかる。

このレベルになってくると、日常業務以外の深い知識が求められてきます。

マニュアルがなくても自分でToBeを考える力

ここが冒頭でお話しした、初級者と中級者の分かれ目になってきます。
非常に抽象的な言い方で恐縮なのですが、言い換えるとas-isからto-beを描けるかどうかということです。

具体的には以下のような事柄です。

・会社の新プロジェクトで、普段はKPIとして集計していない数値をまとめる必要が出た。マニュアルなどがない状況でも、使用したことがないトランザクションを組み合わせて必要な情報を抽出できるだろうか?

・普通は切らないイレギュラー処理が発生した。自分で会計基準を調べ、どう言った仕訳を切ればいいいのか考える。そしてそれはSAP上どう表現すべきなのかがわかり、その通りに設定できる知識があるだろうか?

・年次予算プロセスで共通費の配賦基準を変更することになった。配賦基準を変更する場合、どのトランザクションで、どのキーを変更すべきだろうか?また、その設定変更で本当に正しいかどうか、確認する手段やシミュレーション方法を持っているか?

これらは、単純にSAPを理解しているかということよりも、実務を遂行する上で十分な会計知識、ドメイン知識があるかどうかということにも左右されます。

モジュール間のつながり・自動仕訳を理解する

SAPには複数のモジュールがあり、それぞれが連携してシステムを構成しています。
例えば、SDモジュールではビジネスのプロセスごとに以下のような処理がされます。

(1)受注 VA01(受注伝票登録)

(2)出荷 VL01N (出荷伝票登録) 

(3)請求 VF01(請求伝票登録)

(2)ではSDで出荷伝票登録 が登録されるとともに、FIで以下の仕訳が切られます。
Dr. 売上原価 / Cr. 在庫
(3)ではSDで顧客への請求伝票が登録されるとともに、FIで以下の仕訳が切られます。
Dr. 売掛金 / Cr. 売上

これはわかりやすい例ですが、他にもたくさんのモジュール間連携が存在します。

これらのモジュール間連携をしっかりと押さえて、GL明細を見た時に、「この伝票はこのモジュールでこういう処理をしたから作成されたんだ」、ということがイメージできるようにしておきたいですね。

また、大事なのがマスターデータについての理解です。
ERPはマスター命です。SAPにもたくさんのマスターテーブルが存在します。
なるべく多くのマスターについて、何のためのマスターで、どう使用されているのか把握しておきたいです。

基本+αの論点

その他にも、
 ・関連会社間取引や、連結決算、買収時ののれん処理など出現頻度の低い処理や難易度が高い処理についても知識を持っていること
 ・開示業務、収益認識やリース会計など特定の分野に関する領域での深い知識
 ・一般モジュールに加えてPSなど、特定の会社や業界でしか使わない機能の経験がある

など人とは違う「一芸」あると、とても貴重な人材になるでしょう。

会計の分野知識が専門的になるほど、必然的にSAPなどのシステム知識にも深いものが求めてられてきます。
会計知識とシステム知識は表裏一体ですので、逆に言えばSAPで高度な処理をしたことがある人は、その分野における会計の論点を深く理解している証拠になるとも言えます。

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このレベルになってくると、非常に転職市場での評価も高く、システム化やAIに仕事を奪われにくくなってきます。
結局のところ、自分の頭で考えてas-isからto-beを描ける人、というのはどの職種・どの業界でも強いということですね。

レベル4(マネージャー+)(年収1,200万円〜)

マネージャーレベルのスキルセット

 ・自分の専門分野以外の複数のモジュールについてもかなり理解をしている
(経理であればFI 100%に対して、 CO 80% ,SD70% , MM50%など)
 ・四半期、年次等で行われるSAPの締め業務、設定見直しプロセスなどを監督・リードできる
 ・社内の新規プロジェクトやM&Aに伴うERPの再編成・会計基準の変更に伴うSAP改修のプロジェクトに参加し、実務サイドとしてIT部門やコンサル会社とプロジェクト推進ができる

ゼネラリストとスペシャリスト

このレベルになってくると、2パターンいそうです。

1️⃣ゼネラリストの経理マネージャー、コントローラとして舵取りする立場の人
これはSAPの知識というよりは会計全般について幅広い知識と経験があって、会計基準の変更などにも対応ができる人物というのが前提です。

2️⃣SAPと会計の専門家として、プロジェクト推進のリーダーとなるようなプロフェッショナル
”一芸”がすごく尖りレベルがすごかったり、2芸、3芸持っているような人ですね。
SAP改修や導入プロジェクトなどのリーダーとして、もうSAPのことを専門的に業務として行うようなポジションが該当します。
事業会社側の責任者として、コンサルと一緒にプロジェクトを推進するようなポジションはここ数年間でたくさん募集があり、引き続き需要が高いです。

レベル3とレベル4くらいになってくると、境界はあいまいです。

SAPの実務に関しては上司よりもスタッフの方が詳しいというケースはたくさんあります。

また、経理や管理会計、財務業務と言ってもものすごく多岐に渡りますし、その分SAPシステムも範囲が広いです。
20年のキャリアがある経理パーソンでも、買収や経営統合に係るSAP処理を経験したことがある人は多くないでしょう。

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ポジションというのは経験値や他のスキルセットとの組み合わせで変わってきます。
SAPに詳しいからと言ってマネージャーになれるとは限りませんが、経理にもSAPにも詳しい人は希少価値が高いです。

まとめ

今回は「SAPの使用経験ってどういうこと?」というテーマでレベル別に必要なスキル、経験について考えてみました。

あくまで私の主観ですので参考程度にしていただければと思いますが、みなさんが自分のスキルレベルを測る際に、少しでもお役に立てたら嬉しいです。

それでは!



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